このところ、事業承継をサポートするための金融機関同士での提携の話が増えています。
サポートの体制が整いつつあることは、私たち事業承継の当事者にとって、いいニュースであってほしいと思います。
今回、バトンタッチドットビズで取り上げるのは、大手企業が得意先や仕入れ先の中小企業向けの事業承継支援を独立系ファンドと提携し、 特別目的会社を活用していこうという記事をご紹介します。
この方法を導入するのは、一部上場企業である株式会社山善(以下、山善と表記)です。持続的成長の一つとして打ち出した取り組みです。主なポイントは下記のとおりです。
「経営者が70代半ば過ぎや、子息が入社していないパターンなどがある。オーナー企業が多く、次期の経営者が育っていないこともある」(山善の高津雅彦営業企画部部長)。
山善は事業承継支援に当たり、約3カ月間にわたり、相手企業の従業員に徹底的なヒアリングを実施。課題を抽出し、対応策を共に練る。その後、3カ月かけてアクションプランを立案。平均2年程度かけて実行する。年内をめどに1号案件に着手する予定だ。ただし、自ら仕掛けることはせず、「販売先から相談を受けた場合のみ対応する」(同)。
金融機関との連携は想定せず、ファンドとの連携が中心になる見通し。事業承継の課題が解決すれば、山善とファンドが共同出資する予定の特別目的会社(SPC)に対象企業株式を譲渡するか、山善が完全子会社化する見通し。
日刊工業新聞(2019/6/6 05:00配信)より一部抜粋
抜粋内容からも「次期経営者が育っていない」という現状に、危機感を感じている一部上場企業が、取引先やパートナー企業を事業が継続可能な形にサポートする一つの案という意味では、こういうのもありか!と思いました。
記事の限りでいえば、相談のあった案件のみ対応ということで、無理強いはしないというニュアンスがあります。
今までの取引先にM&Aのような形で託せるのであれば、幸せな結末と言えるのかもしれません。ただ、記事のから感じられる山善の視点は、「BCP」寄りなのかな、と思いました。
「BCP(事業継続計画)」という言葉も、経営者の方は耳にする機会が多いかと思います。ただ、その場合のBCP策定の想定は「災害などの非常時でのBPC」を指すことが多いです。
つまり、災害ひとくくりではなく、地震、台風、洪水などの各ケースに対して、防災面から事業か継続できるための計画を立てることを指します。今回の台風19号などの災害は、企業のBCPが試されるときでもあります。(個人的には、どのくらいの企業が策定したBCPを活かすことができたのか、興味がありますが。)
広義の意味でBCPは、「会社が緊急時に限られた経営資源を活かし、事業を継続させるための計画」という側面を持つものです。そう考えると、今回の山善の取り組みは、まさに、BCP!
このまま対策を立てなければ、せっかく築き上げたサプライチェーンが機能しなくなることへの深い懸念があるのだと思います。まさに、上場企業のサプライチェーンを支えている中小企業が、急に廃業してしまい、ポロポロとサプライチェーンから抜け落ちてしまったら・・・。
そうです!その事態が山善にとって緊急事態なのです。また、中核を担う、中小零細企業がM&Aをしてしまい、急に他社のグループ会社になってしまうなんてことも考えられます。ましてや、気が付いたら、ライバル会社のサプライチェーンの一部になってしまったりなど、あらゆるリスクが考えられます。
今まさに、何か策を練らなければ、山善の考えているBCPは、想定以上にダメージを負う可能性があると判断したのでしょう。
ただ、「支えてくれる中小企業にも考えがあると思うので」と一歩引いたニュアンスは感じられますが、将来的な見通しという観点で、山善の完全子会社化という未来図を描いています。
中小企業の手じまいに対して、有効な出口戦略のひとつとなるのか、興味深い方法です。今後も、じっくり見守っていきたいと思います。